2013年3月31日日曜日

Bristol大学(イギリス)のワークショップに参加

3月26日と27日の二日間で、Bristol大学で開催されたEnergy-Aware COmputing (EACO) workshopに参加し、講演をして来ました。ところで、ARMが最近しきりに宣伝しているbig.littleアーキテクチャというのを知っていますか? ARMが開発した高性能CPUコアと省エネCPUコアの2種類をプロセッサ内に搭載し、それを計算負荷に合わせて切り換えて使うというアーキテクチャ(コンセプト)です。私は以前からこのコンセプトが我々がずいぶん前から提唱している「Multi-Performance Processor」のコンセプトに似ていると言ってきましたが、今回(ARM本社がある)本場イギリスでの講演の中で始めて、このことを恐る恐る言ってみました。そうすると「君の言うとおりだ」と結構好評でした。「Multi-Performance Processor」の本質は、2つのエネルギー効率の異なるCPUコアを「排他的」に動作させること。2つ(以上)のコアを同時に動作させるとそれは単なるヘテロジニアスマルチコアですが、「排他的」に動作させることによって高い平均エネルギー効率と高いピーク性能を同時に達成できるというのが「ミソ」です。この「ミソ」は正にbig.littleアーキテクチャの「ミソ」とも重なっていて、今更ながら提案したときにもっと積極的に宣伝しておけば良かったと思いました。当時は、「複数のコアを同時に動かした方が効率が良いに決まっている」と言われたものですが、ARMがbig.littleアーキテクチャを言い始めると世の中はすっかりbig.littleが良いという雰囲気に変わっています。何はともあれ、ARMの本場でいろいろな研究者と技術交流ができ、有意義なワークショップでした。
「Multi-Performance Processor」以外に、プロセッサのエネルギーをキャラクタライズする研究成果やスクラッチパッドメモリを使った省エネ技術を紹介しどれも好評でした。特にNew Castle Universityの研究者たちが強い興味を示してくれました。同じようなことをやっているようでした。

DATE conference に参加

3月18日~22日にかけてフランスのグルノーブルで開催されたDATE conferenceと共同開催のワークショップに参加してきました。研究員のLeeさん、博士課程のマーフズ君、釡江君と共に参加しました。LeeさんはUniversity Boothとワークショップでポスター発表をし、マーフズ君と釡江君はUniversity Boothで試作チップのデモとポスター発表をしました。多数の訪問者があり、活発な議論ができました。特に今回のDATEはコンピュータの省エネ化にフォーカスしていたので、我々にとっては勉強になりましたし良い宣伝にもなりました。コンピュータ分野の最近流行りのキーワードは「Internat of Things(IoT)」で、今回のDATEでも至るところでIoTの話題が議論されていました。
ところで今回はFujitsu Labs of America で一緒に研究していたDr. Rajive Murgaiに10年ぶりに再会しました。FLAでの研究生活を思い出して感慨深い気持ちになりました。改めて思うことですが、FLAでの2年半の経験が一番自分を成長させてくれた経験になっていると感じます。若い人たちには是非若いうちに海外での経験を積んで欲しいと思います。

2013年3月13日水曜日

ソウル大学訪問

3月11日と12日の二日間、ソウル大学を訪問しました。今回は小野寺先生や学生と共に訪問し、ワークショップも企画しました。各自10分間での短い講演をしてもらいディスカッションするという内容でした。予想以上に充実したワークショップになりました。ソウル大学側ではNaehyuck Chang教授とKiyoung Choi教授およびその学生たちが手厚いもてなしをしてくれました。毎回思うことですがソウル大学の学生たちは英語での講演が上手です。英語もそうですが内容が上手く練られたスライド構成になっています。見習わないといけません。何を知ってもらいたいか、何を知ってもらうと研究の良さが伝わるかを考える能力は重要です。私もまた動機付けられましたし、学生たちもやる気を出してくれることを願います。最終日に昼食を皆でとった後に、集合写真を撮ることになり、通りかかったおじさんに撮影をお願いしたのですが見事な写真でした。それもそのはず、たまたまですが、元カメラマンだったそうです。

2013年3月8日金曜日

システムLSIについて

今日は、私のプロジェクトの研究対象の一部である「システムLSI」について書きたいと思います。過去数年の新聞や雑誌の記事を見ていると、システムLSIが半導体業界の不振の原因だというように言われていますが、それは全く違います。優秀な若者が集積回路設計分野を敬遠する結果になることが心配です。世界には、システムLSIで大儲けしている会社がたくさんあります。例えば、QualcommのSnapdragonやTIのOMAPなどが良い例です。IntelのプロセッサだってシステムLSIの一種です。問題の元凶は、システムLSIではなく「標準品」を作ってこなかった「戦略」にあると私は思います。集積回路は元々写真と同じで、同じ設計を大量に焼き増しして売るから儲かるのであって、一つの設計から少数だけを売ってもあまり儲かるものではありません。もちろん、少量生産でも高い付加価値を付ければそれなりに儲かりますが(それが日本の戦略の一つだと思いますが)、日本のチップベンダはこぞって少量生産の「特注品システムLSI」戦略を採ったために、「システムLSIが儲からない。。。」となってしまったのだと思います。それではなぜ日本のチップベンダは、ベンダ側が主導する「標準品」を作ってこなかったのでしょうか?集積回路に限らず、日本は伝統的に「標準化」があまり得意ではありません。これは教育に大きな原因があるのではないかと私は思います。ある問題とその答えが提示されるとその問題が効率良く解けるように解法を改良することは得意ですが、そもそも新しい問題を探したり、問題の本質を具体化したり、答えの無い問題を解くのが苦手な(あるいはそもそもそういう発想がない)人が多いのでは無いでしょうか? 顧客から具体的に「こういうLSIをこういうスペックで作って欲しい」と言われるとそれを安く作るのは得意ではないでしょうか? 一方で、新しいアーキテクチャを自ら提案して「こういうソリューションが良いんだ!」と説得できる日本人は多くないように思います。欧米、とくにアメリカでは、人と違うことをやる能力や創造力(creativeと言っていました)を徹底的に鍛える教育が行われているそうです。私が北米で仕事をしていたときに、インド人研究者(北米の大学でPh.Dを取得した研究者)たちが口を揃えて北米の高等教育を褒めていました。日本も根本的なところで手を打たないと、この問題はすべての分野に広がっていくのではないかと心配します。